浦和簡易裁判所 平成10年(少コ)31号 判決 1998年11月11日
原告 X
被告 財団法人長野オリンピック冬季競技大会組織委員会
右代表者理事 A
右訴訟代理人弁護士 遠山友寛
右同 長坂省
右同 五十嵐敦
右同 加畑直之
主文
一 被告は原告に対し、金一万三五六〇円及びこれに対する平成一〇年七月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求の趣旨
主文と同旨。
第二請求の原因の要旨
一 披告の過失
1 原告は、平成一〇年二月一一日、長野県白馬ジャンプ競技場で開催された長野オリンピック・ジャンプ競技(ノーマルヒル)を観戦するため、同日長野に出向いた。
ところが、長野駅から同競技場までを結ぶシャトルバスの運行ダイヤが大幅に遅れ、原告がシャトルバスに乗車し、同競技場に着いたときにはジャンプ競技は終了しており、原告は同競技を観戦することができなかった。
2 このシャトルバスの運行責任者は被告である。被告は、長野オリンピック・ジャンプ競技を運営するにあたり万全の措置を講じるべきであるのにもかかわらず、当日のシャトルバスを運行させるにあたり、多くの観客が押し寄せる場合のことを想定し、これに対応する綿密な計画をたてることを怠ったため、多くの観客が観戦することができなくなってしまったものである。
3 原告は、当日長野駅に午前七時四二分に到着し、シャトルバスの行列に午前七時四五分ころ並び、午前九時一〇分ころバスに乗車した。ジャンプ競技の開始時刻は午前九時三〇分であり、競技場までの運行時間は約九〇分という案内であったから、この時点で競技開始時間に間に合わないことが判明していた。にもかかわらず、シャトルバスの運行について、その場にいた被告の従業員から責任ある説明及び釈明もなされなかった。また、シャトルバスに乗車した後、競技場に着くまでの間、なんらの説明もなされなかった。
二 被告の責任
以上のとおり、被告の不適切な事前準備によって、原告は、日本で開催されるオリンピックというまたとない機会を逸してしまった。これにより原告は著しい精神的苦痛を被った。
そればかりか、当日のシャトルバスの運行についての被告従業員の不適切、不親切な応対は、原告の精神的苦痛を倍加させるものであった。
三 原告の損害
1 原告は被告に対し当日のジャンプ競技の入場券及び交通費等二万二三一〇円の払い戻しの請求をなしたところ、被告はこの請求のうち八七五〇円を支払った。
2 そこで、原告は被告に対し、スキージャンプ競技を観戦できなかったために被った精神的な著しい苦痛を慰謝させるための慰謝料として、一万三五六〇円及び訴状送達の日の翌日である平成一〇年七月一八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三理由
被告は本件に関し全く過失がないと主張するが、証拠によれば、被告の過失を認めざるを得ない。従って、被告は原告に対し、原告が期待していたオリンピック・ジャンプ競技を観戦することができなかったことにより、原告が被った精神的に著しい苦痛を慰謝するための慰謝料を支払う義務がある。そして、原告の請求額は、被告の過失の程度に見合う相当な額であることが認められる。
(裁判官 藤井福太郎)